偽りの先生、幾千の涙


「果穂様が来られました!」


「果穂様、おはようございます!」


30人クラスなんだから、そんなに甲高い声で叫ばなくても聞こえるのに。


「おはようございます。
皆さん、また1年間宜しくお願いね。」


早くあの合唱部の子、来ないかな。


楽譜を読んでおけば、多分皆静かにしてくれるはずだ。


そう思ってたら、さっきの2年生の女の子が走っているのが見える。


私がそれを受け取って、始業式の後に演奏するから見ておきたいと伝えると、教室はかなり静かになる。


「果穂ちゃん、大変だね。
でも演奏頑張ってね!」


「ありがとう、花音ちゃん。
緊張するし、初めて弾く曲だけど、精一杯の事はするわ。」


そう言いながら曲名を確認すると、中学1年生の時にピアノのお稽古で弾いたやつだった。


これなら難なく弾けるだろう。


目を通すフリをしていると、クラスの一部の女子の声が耳に入ってくる。


「さっき職員室に行ったんだけど、すっごくカッコいい先生がいたの!」


「本当?伊藤先生だといいね。」


「多分、伊藤先生だよ!
学年主任と話してて、何喋ったかは分からないけど、背高いし、顔小さくて、イケメンで、眼鏡かけてて、あんな素敵な人、初めて見た。」


…私と喋る時もこんな感じで話してくれたら、結構楽なんだけどな。



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