偽りの先生、幾千の涙
入学して、初めての我が儘だった。
一人だけを特別扱いすると認識されて、聞き入れてもらえないだろうけど、それならまたここで待機するからいい。
ここだと応接室のドアを開けていても、姿は見えないし、音で判断するというなら、筆記用具のいらない単語帳を静かに読む。
これなら伊藤が出てくるタイミングで出くわし、タブレット端末をもう一度拝める。
今日のところはそれでいい。
そう思っていたのだが…
「俺に背中向けて勉強してくれるなら、いいよ。」
「…よろしいのですか?」
まさか承諾されるなんて思ってもみなくて、私は何度か瞬きする。
背中を向けてという条件だから、何をしているのかは見れないが、奇跡が起きればタブレット端末に触れられる。
「いいけど、他の子には内緒で。
…おいで。」
伊藤に促され、私は筆記用具やら問題集、鞄を抱えて応接室に入る。
応接室は以前に使った時よりも綺麗に掃除されていた。
私はふと4面の壁を見る。
ドアから入って左側に掛け時計があった。
やはり面談の時は態と外していたのだろう。
部屋中を見たが、他はあの時と変わった様子はない。