偽りの先生、幾千の涙


そんな事を考えながら、やるべき仕事を仕上げて、職員室に戻る。


念のため鍵はかけて、学校に置いておくべき資料はデスクの中に入れ、また応接室に戻る。


ガチャッとわりと大きな音が鳴ったにも関わらず、榎本果穂は夢から覚めないようで、椅子に座ったまま寝息を立てている。


透き通るような白い肌に、バランスの取れたパーツ、艶々とした長い黒髪、決められたとおりのセーラー服…まるで人形のようだった。


美しく飾られたそれの横を通り、自身の荷物を片付け、俺はまた榎本果穂の前に立つ。


海斗は国木田花音が好みらしいが、もし俺も高校生だったら、きっと榎本果穂の方が好きだっただろう。


そう思えるくらいに綺麗だった。


「榎本さん、榎本さん!」


もっと大声で呼びたいが、あんまり大きな音を立てると他の教員が来る可能性があるし、猫を被っている時のトーンで話さないといけないのでこれ以上の音量は出せない。


何度呼んでも起きないから、俺は榎本果穂の二の腕を掴んで揺すった。


「榎本さん、帰るよ、榎本さん!」


強めに揺すると、お嬢様はやっとお目覚めのようで、目を半分開けながらこちらを見る。


「…」


「榎本さん、起きれる?
そろそろ下校時間ギリギリだし、俺も帰るよ。」


薬がまだ効いているのか、榎本果穂はまだ意識がハッキリしていない。


俺は何とか榎本果穂を立たせると、鞄の中に持ち物を入れるように言った。


榎本果穂は頷いたが、話は頭に入っていないようだ。


「榎本さん、しっかりして、榎本さ…」


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