偽りの先生、幾千の涙
しっかりしてなんて言葉は無駄だった。
榎本果穂は全くもって起きず、その場に倒れそうになり、俺が彼女を抱き留める形となった。
榎本果穂は平均よりも少し身長が高いが、それでも俺からしたら小さくて、折れそうなくらい細くて、今にも殺せそうだった。
こんな頼りない体で、親から金を貰っているとはいえ、一人で生活して、学校では猫を被って、学園の頂点に立っているのかと考えると、大したものだ。
頼りないからこそ、いや、誰にも頼れないからこそ無理して頑張っているのかもしれない。
そう考えると、俺は自分自身が幸せなように思えた。
俺には父さんや海斗がいるんだ、この子と違って一人じゃない。
父さんや海斗がどう思っているのかは知らねえけど、父親の犯した罪のせいで家族を失った彼女が俺には哀れに思えた。
俺の腕の中で気持ち良さそうに眠る榎本果穂を椅子に座らせた。
俺に頼るぐらいだから、本当に家に帰りたくないんだろう。
なら下校時間ギリギリまで寝かせてやろう。
それでも起きなかったら、手荒な真似はしたくないが、強制的に起こせばよい。
俺は自分の鞄に入っていた薬を確認した。
使用した薬は間違っておらず、こんなにもぐっすり眠るはずがない。
薬が回りやすい体質なのか、それとも疲れていたのか、どちらかだろう。
「…もう少し弱い薬も持ち歩いておくか。」
独り言を呟いて、俺は時計を見る。
下校時間まで残り10分、果たしてお姫様は目覚めるだろうか。