偽りの先生、幾千の涙
「どういう事だ?
いつ帰国したんだ?
ずっと日本にいるのか?」
「父さん、ちょっと落ち着けって。」
父さんの慌てぶりに、俺は不安を覚える。
慌てる事なんて何もない。
ただこれからどうするか、どう近付き、止めを差すかを再度考え直すたけだ。
いつもの父さんなら分かるはずの事である。
「…」
「俺も詳しい事は知らない。
でも、今日マンションのエントランスで見たんだ。
実は今日、榎本果穂が…」
俺は今日の出来事を全部伝えた。
父さんは一度も相槌を打たずに、話を聞き続けた。
話終えると、父さんは静かに尋ねる。
「なら…今は榎本親子の会話を聞きながら話しているのか?」
「イヤホンは付けてるけど、彼らは今話していない。
会話内容は全部伝えたから、俺から話す事はもう思い付かないよ。」
「そうか、よくやったな。」
父さんは少し落ち着いたのか、一息ついた。
俺も少しだけ気を緩めた。
「でも、榎本果穂は何か気付いているのかもしれないというなら、引き続き報告を頼む。」
「分かりました。」