偽りの先生、幾千の涙


父親の怒鳴る姿を見たのは何年ぶりだろう。


何年もずっと良い子でいたから、遥か昔の事だ。


確かに部屋に入るのは悪い事だけど…そこまで怒られる事かな。


思春期の子供じゃあるまいし…と、心の中で呟く。


「申し訳ございません。
書類関係には一切触れていませんし、物も動かしていません。
机の上と床の周辺は少し見ましたが、本当に申し訳ございません。」


私は深々と頭を下げると、ピタリと止まった。


許しの言葉が出るまでは、決して頭を上げてはいけない。


小さい頃に学んだ、怒られる時間を短くする方法だ。


私が頭を下げ続けて1分、父親の溜め息が聞こえる。


「…本当だろうな。」


「はい、本当です。」


「パソコンや鞄も触っていないだろうな。」


「ええ。物には一切。」


「ならいい。
だが、もう二度とするな。
少なくとも、私が日本にいる間はダメだ。」


私は頭を上げて、もう一度謝ると、部屋を出た。


代わりに父が部屋へと入っていく。


< 156 / 294 >

この作品をシェア

pagetop