偽りの先生、幾千の涙


幼い頃にとても良くしてくれた父親の友人が亡くなった事とか、その程度の事だけど。


読み終えると、私はそれを鞄の中に入れた。


そして考える。


目的は何にせよ、私が伊藤の計画に巻き込まれているのは疑う余地がない。


最終的に伊藤が私をどうしたいのか、調べる必要がある。


あのタブレット端末もまだ謎だし…でもここまで推測出きるなら、私の行動は決まった。


伊藤に協力するフリをする。


受け入れるか分からないけど、少なくとも私が気付いている事は話さないといけない。


そこから伊藤の行動がどうなるか分からないけど…このまま知らないフリをしていたら、きっと私は何も掴めないわ。


机を少し乱暴に開けて、伊藤に貰った名刺を取り出す。


そしてスマホに、ローマ字を一文字一文字打ち込んで、最後に用件を書いた。


『伊藤先生
夜分に申し訳ございません。
榎本果穂です。
先生に相談したい事があるのですが、
近々、放課後にお時間いただけないでしょうか?
他の人には聞かれたくない事です。
よろしくお願いいたします。』


送信すると、スマホのカバーをパタンと画面の上に。


…これからが勝負ね。


仕掛けてきた日の夜にこんなメールを送って、伊藤はどう返事をするのかしら?


心の奥底でワクワクするのを感じながら、私は送ったメールを削除し、名刺を元の場所に戻した。


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