偽りの先生、幾千の涙


出席を取り終えると、先生は自己紹介を始めた。


名門私学の法学部出身の24歳、専門科目は勿論公民だが、社会なら何でも教えられるらしい。


大学の頃からずっと塾とカフェでアルバイトをしていて、1度はバイト先の塾に就職したが、学校の先生に憧れて今に至るという。


音楽が好きで、特技はチェロという絵に描いたようなイケメン像を語っている。


教室の熱気が更に増したのは言うまでもない。


私はと言うと、そんな周りの空気なんて関係なくて、その人の事をただただ睨みつけていた。


何だろう、笑顔で話しているけれど、笑ってない。


私が皆と話している時と同じ笑顔だから分かる。


…この人本当に先生になりたかったの?


そんな疑問を抱いたまま、始業式のために体育館に移動する。


他のクラスとか学年の生徒も、伊藤を見てキャーキャー言っていて、その度に伊藤もはにかんでいる。


はにかんでいる仕草まで怪しく見えてきた。


始業式そっちのけな生徒を見ながら、退屈な始業式を真面目に聞くフリをする。


優等生だから、私。


人の話は一応ちゃんと聞かなきゃ。



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