偽りの先生、幾千の涙
榎本果穂が軽く頭を下げて、また歩き始めると、女子生徒達が榎本果穂の歩く方へ進んでいく。
それは立場の違いを見せつけているようだった。
俺は言わば、見せ物だ。
女子高の中では珍しい若い男、青春の真っ只中の彼女達にとっては憧れの存在であるが、そこまでだ。
対して、榎本果穂は彼女達と同じ女子高生だ。
同じような年の同性の中で、実力で今の地位を手に入れた。
苦労したのかは分からないが、周りとは格が違うし、それを誰もが認めている。
榎本果穂も彼女達の憧れであるが、そこには尊敬や信用がある。
今の俺に、そういったものはまだ足りない。
4月から数えて2ヶ月、その事実が胸に響いた。
それから俺は普段と同じように職員室に行き、持ち物を確認する。
そして周りに人の気配を感じ、全ての持ち物を鍵付きののデスクに入れる。
「伊藤先生、ご用件は何でしょうか?」
先程と同じ笑みを携えた榎本果穂に、生徒指導室へ行くように指示する。
俺はファイルを数冊持って、一緒に生徒指導室へ向かった。
あたかも生徒の相談に乗るように。