偽りの先生、幾千の涙


生徒指導室は狭いながらも綺麗に掃除されていた。


電気を付けると、小さなテーブルがあって、パイプ椅子が向かい合って置かれている。


榎本果穂を奥の席に座らせると、面談をするようにファイルを並べた。


そして俺のスマホをテーブルの端に置くと、静まり返った部屋に少女の声が響く。


「突然すいません。
伊藤先生もお忙しいのに。
あと、昨日は我儘を聞いて下さり、ありがとうございました。」


「そんな事、榎本さんが気にする事ではないよ。
それより相談って?
朝礼までに間に合いそうな事?」


「いえ…きっと少しお時間がかかってしまいます。
放課後に改めて相談でもいいですか?」


「ごめん、今日は学年会議があるんだ。」


これは本当の話だ。


春に受けた模試の結果の集計が終わったから、今年はどう進路指導していくかを改めて話すとか言っていた。


まあ、もうすぐ消える俺には全くもって関係ない話なんだけど。


「じゃあ…先生のお家、行ってもよろしいですか?」


「…は?」


この一文字は素で出たものだった。


先延ばしにされたと向こうは考えたのか知らないけど、他の教員に聞けば、会議があるのは照明できる。


榎本果穂ならそれぐらい分かるだろうし、俺がそこまで下手な嘘を吐かない事も考えられる子だ。


なのに、どうして態々俺の家に行くとでも言い出したのか。


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