偽りの先生、幾千の涙
こんな事もあろうかと、見つかって困るものは隠したし、軽いトラップも仕掛けてある。
だが…俺はあの日に自分に問いかける。
どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。
あの一言を利用されるなんて、当時の俺は想像もしていなかった。
どころか、あの馬鹿っぽい女子高生が演技だなんて思いもしなかった。
…完全なる俺の失態だ。
俺は後悔に頭を痛めながら、電車に乗る。
榎本果穂は今何処にいるのだろうか。
遅れて来るとは言っていたが、俺を油断させて尾行しているかもしれない。
それはないか、同級生に見られて困るのは、俺ではなくあの子の方だ。
今まで築いてきた信頼を壊すなんて真似はしないはずだ。
…ああ、なるほど。
学校でなく家で会いたいと行ってきたのは、俺と会っているところを誰かに見られるリスクを避けるためか。
セキュリティ抜群のマンションなら、他人が入って来る事はまずない。
俺も生徒や教員達の住所は一通り見たが、あのマンションに住んでいるのは俺と榎本果穂だけだ。
親戚や友人が住んでいたとしても、この平日に来る可能性は限りなくゼロに近い。
万が一、マンション内で会ったとしても、榎本果穂が1人で俺の家に来るのなら問題ない。
ご近所の方の家にお呼ばれしたと言えばいいだけの話だ。