偽りの先生、幾千の涙
side by 果穂
伊藤から連絡が来たのは、20時になる少し前の事だった。
私は持ち物を用意して、大きめの鞄に詰めて、私服に着替えてから家を出る。
伊藤がこの日を選んでくる事は予想してた。
父親が今日は家に帰らない事は、あえて聞かせてある。
家に入れてくれるかは自信がなかったけど、あっさりと入れてくれた。
トラブルがあって学校で騒がれるより、家の方が色々と隠せると思ったのかな?
私としても、マンション内の方が時間もかけれるし、誰かに見られる可能性もゼロに等しいからありがたいんだけどね。
どちらにしろ、今からが勝負よ。
私は家中の電気を消して、敵地へ向かう。
エレベーターで2階まで下り、あの日に行った部屋へ真っ直ぐと進む。
廊下はあの日よりも短く感じられた。
鞄を肩にかけ、一応用意した手土産の紙袋を両手でしっかりと握る。
インターホンを押すのに躊躇いはなかった。
不思議と怖さもなくて、落ち着いている事に驚くぐらいだ。
でも対等に話すためには、これくらい冷静でないとダメだ。
伊藤は頭が良いから、引け目を感じた瞬間に、同じレベルで話せなくなる。