偽りの先生、幾千の涙
始業式が終り、管弦楽部と合唱部の春の発表が始まる。
3年生はここで部活引退になるから、これが最後の舞台というわけだ。
発表は合唱部が先で、助っ人の私も準備をする。
「果穂様、引き受けてくださってありがとうございます。
果穂様がいて助かりました。」
「私で良ければ、いつでもお手伝いするわ。」
そう言って、曲目の確認をする。
それから一緒に舞台に上がって、ピアノの前に座り、指揮者とアイコンタクトを取る。
私が弾き始めると、彼女達は歌い始める。
曲が終わるまで、失敗なんて1つもなかった。
拍手と共に、私も立って一礼する。
終わると合唱部の皆と一緒に、元の場所へ戻る。
「流石、果穂様ですよね。
今朝お願いしたのに、1度も間違えないなんて。」
「だって果穂様ですもの。」
そんな会話に相槌を打ちながら舞台裏を出ると、伊藤が拍手して微笑みかける。
「水仙の合唱部、上手いって聞いてたけど、皆綺麗な声だね。」
誉められると、彼女達は頬を朱に染めながらお礼を言う。
「榎本さんもピアノ上手だね。
大分練習したの?」