偽りの先生、幾千の涙


「気を遣わなくて良かったのに。」


「いえ。
お時間いただいているので。
細やかなもので申し訳ないのですが。」


いつものような仮面を被ったままの会話が続く。


でもいつまでも肩慣らしを続けるわけにはいかない。


出された紅茶にお礼を言うと、紅茶の色を確かめる。


色や匂いは普通の紅茶だ。


油断は出来ないが、この段階では何も疑えない。


それなら…もう本題に入るしかない。


「先生、相談なのですが…」


困ったように眉を下げると、伊藤は表情を変える。


身構えるような顔を見て、本題が何かは分かっていると確信した。


「伊藤先生、先日、父とエレベーターで会ったと思うのですが…実はあの日に父が帰国したのです。
それで、家に帰った時に父の預かったんですけど、その時にこういうものを見つけて…」


私はスマホで撮った盗聴器の写真を見せる。


「これは?」


白を切るつもりの伊藤に、私も首を傾げる。


「さあ…よく分からないのですが、少なくとも昔はこんなもの付いていなくて。
テープで機械のようなものが固定されているように見えるんですけど、怖くて触れませんでした。
爆発なんてしたら、大変でしょ?」


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