偽りの先生、幾千の涙
端から見たら、心ときめく光景かもしれない。
私も伊藤も顔は綺麗な方だし、放たれる言葉は恋に落ちた者同士と思える。
でも、言葉には何の感情も込められていない。
上手に作った上っ面の代物に吐き気を感じながら、互いの反応を見ているのだ。
「伊藤先生、お家で会う時は貴久さんって呼んでもいいですか?」
「いいよ、俺も果穂ちゃんって呼んでいい?」
「勿論。
ちゃんなんて付けなくてもいいぐらいですよ。」
伊藤が立ち上がって、私の正面から隣に移動する。
近すぎる距離に恐怖を感じるけど、今ここで離れたら、お芝居が全て台無しになってしまう。
伊藤が私の髪を右手で撫でる。
まったりとした仕草は魅力的で、今まで何人の女性が騙されたのかと考えてしまう。
私はその様子を冷めた目で見ていた。
「どうする?
相談の続きする?
それとももっと楽しい事する?」
「それじゃあ…相談の続きで。」
やっと本題に戻れる事に胸を撫で下ろしつつ、伊藤の左手に触れた。
「怖い?」
「そりゃあ…怖いですよ。
外していいか分からないですもの。」