偽りの先生、幾千の涙
頭上で動いていた手がピタリと止まる。
私は伊藤の顔をじっと見た。
貴方に協力してあげるって言ってるのよ。
そんな警戒丸出しに雰囲気は出さないでほしい。
「協力?
どうして?
家族だろ?
もしかして、反抗期?」
本気で疑っている感じの聞き方だけど、どうしてそこで感情を出してくるのかな?
もしかして、伊藤の家族って仲良し?
1人暮らしの家に弟が来るぐらいだし、可能性はある。
でも、不仲な家族なんて世の中にごまんといる。
もしかしたら、私の家はその中でも酷いのかもしれないけど。
「これが反抗期なら、とても長い反抗期ですよ。
それに…家族と言っても、ただ血が繋がっているだけですよ?
私も父も、家族という集団に愛情は感じていません。」
これは本当の事で何にも嘘は吐いていないのい、伊藤は未だに信じていないようだ。
言い過ぎた?でもこれから本当に協力していくなら、これぐらいの毒は出さないと、信じてもらえない。
「…答えたくなかったらいいけど、何があったの?
虐待されていたとか?」
「いいえ。
暴力を振るわれたりはしていないですよ。
ただ…大事なものを奪われただけです。」
私は知っている。
お母様の命を奪ったのは、紛れもない私の父親なのだ。