偽りの先生、幾千の涙
伊藤が私の肩を掴んで、そのままソファに押し付ける。
白い天上と、無表情の伊藤だけが視界に入る。
床に付いていたはずの足も、いつの間にかソファの上にあって、太股の上に伊藤が座っているから自由に動けない。
「焦らなくても、君を取って食おうなんて思わないよ。
逃げられたら困るからこうしてるだけ。」
肩を掴んでいた両手を移動させ、私の両手首を固定させる。
そして嘘なのか本当なのか全く分からないトーンで話してくる。
「…あの盗聴器はやっぱり貴方のものですか?」
分かってるけど、あえて聞いてみた。
「そうだと言ったら?」
「全ての辻褄が合います。」
「なるほど。
俺を警察にでも突き出す?」
「いえ。
父を警察に突き出します。」
「一貫性があっていいね。
それで取引だけど、果穂が不利なのは分かっているよね?
俺が手を出したりしたら、いつでも学校から追い出せるとか、それこそ警察に突き出せるとか考えていたのかもしれないけど…こっちが殆ど何も話してないのに、喋り過ぎだよ。
というわけで、俺のために働いてもらおうか。」
喋りすぎた?私、そんな大事な事は話したつもりないけど…伊藤にとっては有利な事があったの?
「…私は何をしたらいいんですか?」
「簡単だよ。
俺が知りたい事を、君のお父様に聞いてほしいんだ。
勿論、よく聞こえるように鞄の近くでね。」
そういう伊藤も、自分が仕掛けたって認めちゃったけど…そこまでして知りたい事があるの?