偽りの先生、幾千の涙


伊藤がいないおかげで、管弦楽部の発表は集中して聞く事が出来たが、問題はそれだけでは終わらない。


伊藤は教室に戻ればいるのだ。


相変わらず、貼り付けたような笑みを浮かべて、女子生徒に囲まれている。


そういう感じでは全く興味のない私と一緒についてきた花音ちゃんは、その塊を無視して席に座る。


「伊藤先生、凄い人気だね。」


「そうね、確かにこの学校若い男の先生とか今までいなかったし、人気なのも仕方ないんじゃない。
…花音ちゃんは行かなくていいの?」


「うーんと、いいかな。
それより、皆が伊藤先生に構ってるおかげで、果穂ちゃんと2人でお話できるのが今は嬉しいな。」


「確かに、あまりゆっくりお話できる時間もなかったもんね。」


私と花音ちゃんはかなり長い付き合いだ。


初めて会った時の事なんて覚えていない。


だって私達はまだ赤ちゃんだったから。


小学校の時までは、年に何回か会う父の知り合いの子という認識だったが、中学に上がる時に水仙女子学院中学で毎日顔を合わす事になった。


その頃から猫を被る事を覚えた私は、周りから段々と注目されるようになって、中学2年生になる頃には果穂様って呼ばれるようになった。


最初の1年間こそ花音ちゃんと2人でいる事も多かったけど、周りの人間が増えるにつれ、その時間も減っていく。


最近では2人だけっていうのはほぼなかった。



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