偽りの先生、幾千の涙
やっぱり盗聴しているから分かるのだろうか。
伊藤に帰れと言われて帰ると、わりとすぐに父親は帰って来る。
今日なんて、数分後に帰って来た。
玄関から音が聞こえた瞬間、私はそこに向かって、伊藤に言われたとおりの事をする。
玄関から蒸し暑い空気ち共に帰って来る父親に、私は無理矢理笑顔を作る。
「おかえりなさいませ、お父様。
今日もお仕事お疲れ様です。
鞄、お持ちしますね。」
「ただいま。
いつもすまんな。
部屋の入口に置いてくれ。
くれぐれも、中に入らないように。」
「かしこまりました。」
父親は素直に私に鞄を差し出した。
私は父親に前を歩かせると、そっと鞄の底に触れた。
今日も盗聴器は外れていない事を確認すると、父親の部屋の入口にそっと置いた。
「何か食べるものはないか?」
父親の部屋を離れようとした時、中にいる彼から話しかけられたので、私は部屋を見渡しながら返事をする。
「冷蔵庫に入っているものでよければ。
簡単なものでよければ、すぐにお作りしますけれど。」
「じゃあ適当にスープでも頼む。」
「分かりました。
出来ましたら、お部屋にお持ちいたします。」