偽りの先生、幾千の涙


やっぱり盗聴しているから分かるのだろうか。


伊藤に帰れと言われて帰ると、わりとすぐに父親は帰って来る。


今日なんて、数分後に帰って来た。


玄関から音が聞こえた瞬間、私はそこに向かって、伊藤に言われたとおりの事をする。


玄関から蒸し暑い空気ち共に帰って来る父親に、私は無理矢理笑顔を作る。


「おかえりなさいませ、お父様。
今日もお仕事お疲れ様です。
鞄、お持ちしますね。」


「ただいま。
いつもすまんな。
部屋の入口に置いてくれ。
くれぐれも、中に入らないように。」


「かしこまりました。」


父親は素直に私に鞄を差し出した。


私は父親に前を歩かせると、そっと鞄の底に触れた。


今日も盗聴器は外れていない事を確認すると、父親の部屋の入口にそっと置いた。


「何か食べるものはないか?」


父親の部屋を離れようとした時、中にいる彼から話しかけられたので、私は部屋を見渡しながら返事をする。


「冷蔵庫に入っているものでよければ。
簡単なものでよければ、すぐにお作りしますけれど。」


「じゃあ適当にスープでも頼む。」


「分かりました。
出来ましたら、お部屋にお持ちいたします。」



< 197 / 294 >

この作品をシェア

pagetop