偽りの先生、幾千の涙


あーあ、伊藤に毒でも貰えばよかった、そうしたら今すぐに抹殺できるのに。


…あれ、そういえば伊藤、何でそういう事はさせないんだろ?


私が父親に毒を盛るなんて簡単な事だ。


そうすれば、伊藤の目的って果たせそうなのに…私が警察に告げ口する心配があるからかな?


それなら、伊藤の計画に絡んでしまった時点でリスクがあるとは思うけど…決定的な証拠になるからかしら。


…考えても仕方ないから、今度提案してみようかしら。


そう考えながら、晩ご飯の余った食材を鍋に突っ込んで、コンソメスープを作る。


伊藤ならばれずに済む薬とか持ってそうだし、急に倒れて死んでも、遺族である私が遺体解剖を拒否すればばれないと思うけど…


邪な事ばかり考えていたら、スープは出来上がった。


おぼんに乗せて、父親の部屋に持って行った。


ノックして入ろうとすると、中からいきなり大きな声が聞こえてくる。


「だから、その開発は今月中に終わるという話だっただろう?
私だって暇じゃないんだ。
アメリカの方も長くは空けておけないからな…何?
実験に失敗したなんて言い訳は聞き飽きた。
そんな言い訳をする暇があるなら、とっとと開発に戻れ。
来週中に結果が出なければ、分かっているな?」


可哀相に、社員の方が父親に無理難題を押し付けられているに違いない。


それでも社員だから、文句も言わずに働かないといけないんだろうな…もう夜の10時半なのに…そんな事を考えながら、ドアを3回叩く。


「お父様、スープをお持ちいたしました。」


父親すぐにドアを開けて、乱暴な手つきでおぼんを受け取る。


「ありがとう。
こっちの事はもういいから、早く寝なさい。
明日も朝早いのだろう?」


ええ、朝早いわ、でもこれも課題の一つなの。


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