偽りの先生、幾千の涙
「そうでしょ?
だからね、なんか昔に戻れたみたいで嬉しいの。」
無邪気に話す花音ちゃんは嘘を吐いていない。
さっきから嘘を吐いていると思われる男に振り回されていたせいか、妙にホッとする。
そういう私が一番嘘を吐いているのだけれどもね。
「さあ、そろそろまたホームルーム始めるか。」
浮かれた女子高生が席に戻る。
伊藤が教壇に立つと、皆がちゃんと前を向いた。
「ホームルームって1個の事が決まれば、あとは自習にしようと思う。
皆も勉強したいよな。
そういうわけで、とりあえず学級委員だけ決めないといけないけど、誰かやりたい人いる?
他薦でも自薦でもいいぞ。」
伊藤がクラスを見渡すも、誰も何も言わなかった。
いつもなら、誰かが私の名前を言って、私以外の皆が賛同して、私が皆の推薦に従うという形なんだけれども、もしかして今回に限っては皆やりたいの?
私だっていつもやりたくてやっているわけではないから、誰かやりたい人がいるなら是非とも立候補してほしい。
でも誰も何も言わないのは、いつもと違う事をする勇気が持てない人ばかりだと言う事だ。
私を推さなかったからって、誰も咎めないとは思うのだけれども、どうしてかしら。
無言の教室で、伊藤は困ったような顔をする。
「誰もやりたい人いない?
まあ、面倒だもんな。
じゃあ学級委員経験者は?」
経験者なら慣れているし、その子で決まりという流れか。
私は教室中を見渡すが、私以外でやった事のある子がいなさそうだ。
私は溜め息を飲み込んで、渋々手を挙げた。