偽りの先生、幾千の涙


思い出すと、悔しくて涙が出てくる。


お母様は優しかった。


あの男に嫁ぐには勿体ないぐらい、穏やかな人だった。


どうしてお母様が死んで、あの父親のような人間が生きているんだろう。


悲しいや苦しいなんて言葉では表現しきれないものが、答えを求めて体内から溢れてくる。


一つ二つと大きな水滴となったそれは膝の上を濡らしていった。


泣いていても仕方ないとは分かっている。


今なら行動出来るのだ。


期せずして、協力者を得た。


彼は私と違って、情報も物も持っているようだ。


…私は自分の命と引き換えにして成そうとした復讐を、彼は違う方法で遂げようとしている。


乗るしかないのだ、どんな手段を使っても。


私は涙を拭いた。


今すべき事をやらなければならい。


協力者だって完全に信用してはいけないのだ。


彼の事もある程度は調べないといけないし、身の危険を感じたら逃げない。


どうせ死ぬつもりの命だけど、どうせなら目的を達成してから死にたいし、そのため以外に死ぬのは嫌だと今なら思うようになっている。


どうして心変わりしたのかは分からないけど…それが今の正直な気持ちだった。


< 207 / 294 >

この作品をシェア

pagetop