偽りの先生、幾千の涙


「榎本さんだけ?
じゃあ榎本さんにお願いしていい?
初めての子がやるよりいいでしょ?」


私は教室中を見渡す。


今回に限っては凄く嫌だけど、そろそろ時間切れだし、私だって誰を薦めたらいいか分からないもの。


そう思っていたら、後ろにいた花音ちゃんが急に立った。


驚いて振り返ると、花音ちゃんが私に向かって頷いた。


「榎本さんが良いと思います!
榎本さんはいつも学級委員をやってくれていて、皆も榎本さんのことを信頼しているので、問題ないと思います!」


待って、あの頷きはそういう意味だったの?


私が若干呆れていると、他の子も花音ちゃんの意見に賛成した。


気が付いたら、いつもの流れになっていた。


「なら、榎本さんという事で。
よろしくね。
じゃあ今から自習。
社会は俺に聞いてくれたらいいし、友達に聞くのもいいけど、、あんまり大きな声は出さないように。」


伊藤先生が余っている椅子を教壇に持ってきて座ると、殆どの女子生徒が一斉に立った。


社会って基本的に暗記だから、そんなに質問する事ないと思うのは私だけなのだろうか?


「果穂様、朝にもお話ししたのですが、化学を教えてもらえませんか?」


何人かの女子はこちらに来た。


「勿論。
でも…変な意味ではないのですけれど、あちらに行かなくていいの?」


視線で伊藤の方を指すと、彼女たちは首を振って、今は混んでいるから行きたくないと言った。


賢い選択をする子もいるのだと感心しながら、私は化学の課題を教えた。



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