偽りの先生、幾千の涙


幼少期にクラシックコンサートに行った。


音楽が好きだった父親は、当時から俺に色んな曲を聞かせてくれていたが、あのコンサートもその一環だったのだろう。


その時、俺はその楽器の虜になった。


勿論、習いにいってはいない。


ちゃんと弾くようになったのは、今の父さんに出逢ってからだ。


今の父さん…皆川稔彦に出逢ったのは、あの事故の後だった。


俺の両親も、あの事故で死んだ。


母さんが骨折して、父さんが見舞いに行っていた。


俺は親戚の家に預けられていて、病院には行っていなかった。


だから…今俺は生きている。


その後、親戚の中で誰が俺を引き取るかという話になった。


ガキの俺を引き取りたいなんて奴がいるはずもなく、俺は暫く祖父母の家で厄介になっていた。


そんなある日だった。


祖父母の家のインターホンが鳴った。


対応したのは俺ではなく祖父だったが、遊んでいた俺はすぐに呼び出された。


8畳の和室に行くと、スーツを着た知らない男が祖父の前に座っていた。


俺と何の関係があるのだとうと思ったが、まさかその男とこれから一緒に住む事になるなんて思いもしなかった。


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