偽りの先生、幾千の涙


俺も家族が欲しいと思った。


共にいる事を疎ましく思ったり、思われない家族を。


気が付けば、俺も祖父と同様に、手放しにその事実を喜んでいた。


それから俺は父さんと二人暮らしになり、程なくして新しい家族が増えた。


海斗だ。


最初こそどう接したらいいか分からなかったが、仲良くなってからは生活する事がとても楽しかった。


厳しいところも多いけど、温かい父


生意気で馬鹿だけど、懐いてくる弟


本当の両親といるよりも充実した生活を送っていた。


だけれども、少し物足りないのも事実だった。


男ばかりの生活に音楽は存在しなかった。


贅沢な話だが、昔は当たり前のように近くにあったものだから、時々無性に欲してしまうのだ。


その事に父さんは気付いたようだ。


好きな楽器は何かと聞いてきて、チェロだと答えた。


数ヶ月後、中古品の安いそれが家にやって来た。


父さんから貰った初めてののプレゼントだった。


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