偽りの先生、幾千の涙
その日もあっという間に終わった。
午前中の自習も、午後の補講も終わり、私はとっとと帰ろうとする。
放課後も伊藤は人気者で、ホームルームの後もすんなりと家に帰れそうだ。
と思ったが、皆帰りの挨拶はきっちりしてくれるのだ。
「果穂様、さようなら。」
「果穂様、お気を付けて。」
恭しくそう言ってくれる皆に笑顔で手を振るが、またもや余計な一言が入る。
「榎本さん、さようなら。」
ふんわりと笑っているつもりの伊藤までも挨拶をしてくる。
「さようなら。」
私も負けないくらいふんわりした笑顔を返す。
そうして漸く教室を出ようとしたら、今度は花音ちゃんに呼び止められる。
「果穂ちゃん待って!
私も一緒に帰る!!」
バタバタと鞄に荷物を詰め込んだ花音ちゃんがこちらに向かって走ってくる。
「花音ちゃん、走ったら危ないよ。
私も急いでいないから。」
花音ちゃんはありがとうと言うと、一緒に並んで帰った。
勿論、誰かとすれ違う度に挨拶されるけれど、教室での拘束時間がない分、帰りは早かった。