偽りの先生、幾千の涙
それは…えげつなくて、効果的なものだろう。
だが…
「父さん、あの榎本悟郎がそんな事で屈するだろうか?」
「どういう事だ?」
「あいつはそもそも、娘に対して愛情があるのかと思って。」
「いくら非道な人間って言っても、あいつも人の子で、人の親なんだぞ。
愛娘を殺されて、何の感情も湧かないなんて事があると思うか?」
「父さんが言っている事も分かるけど…」
「結婚も子育てもまだした事がないと分からないかもしれない。
そりゃ、世の中には子供を殺すようなクズもいるがな…自分で殺されるのと、他人に殺されるのは別の話だ。
たとえ榎本悟郎でもな。」
父さんの言う事が間違っているとは思えなかった。
思いたくなかった。
それでも、どうしてか榎本悟郎という人間を信じる事が出来なかった。
あいつは妻は平気で犠牲したんだ。
「父さんに任せなさい。
大丈夫だ、殺すのは俺だ。
海斗にも…優にも直接的には何もさせない。
…巻き込んで悪かったけどな、それぐらいは俺にさせてくれ。」
久しぶりに、俺は自分の本名を聞いた。
そうだった、俺、瀬戸内優って名前だったな。
産みの親から貰って、引き継いでいく名前だから、皆川にはなるなって言われて…
この数ヶ月間、すっかり忘れていた。