偽りの先生、幾千の涙
「それで、場所と日にちだけどな…」
父さんが説明する内容を、俺は書きとめる。
だが、手が微かに震えていて、汚いメモになってしまった。
「榎本悟郎の方は俺が何とかする。
娘の方はよろしく頼んだぞ。」
「分かったよ。
じゃあ、おやすみ。」
父さんの返事を聞く前に電話を切った。
それからこの汚いメモを見る。
そうだ、榎本果穂を部屋に呼んで、それからまた眠らせたらいい。
多少乱暴に扱っても、起きない程度の睡眠薬で…そう、それで…そうだ、手足を縛って、大きめのスーツケースか段ボールにでも入れたらいい。
車まで運べば、あとは父さんのところに連れていくんだ。
簡単な話だ、俺になら容易な事だ。
でも…
榎本果穂が言っていた事を思い出す。
父親に復讐したいと言っていた。
協力するとも言っていた。
でも…こういう事ではない。
彼女がこちらについた事を言わなかったのが裏目に出た。