偽りの先生、幾千の涙


「あの…ほら…伊藤先生の話…」


最後に近づく程、花音ちゃんの声は小さくなる。


ここだとマズい話なら、学校でなくてもどっちかの家で…って、私の家はダメか。


「おば様達に聞いてくれたの?」


「うん、ちゃんと調べてもらったんだけど…えっと…今から言う事、誰にも言わないでね。
果穂ちゃんのお父様にも、あたしの家の誰かにも。」


「花音ちゃんがそう言うなら…それって言っちゃダメって言われてるの?」


今度は縦に首が動く。


それで返事が遅くなったわけか…まあいい。


今なら色々と間に合わす事が出来るはずだから。


「そうなんだ。
それで、おば様達は何て?」


出来るだけ優しい声で問いただす。


花音ちゃんが手招きしたから、私は少し屈んで、花音ちゃんの身長に合わせる。


すると、花音ちゃんは私の耳元で教えてくれた。


「先生、大学出てないみたいなんだ。
あとは…全然教えてくれないの。」


花音ちゃんの声は何処かに吸い取られるように小さくなっていく。


耳元じゃなかったら、確実に聞き返していただろう。


でも全部聞こえたが、私は聞き直したい。


それ以外に知っている事はないのかと。


< 225 / 294 >

この作品をシェア

pagetop