偽りの先生、幾千の涙
「あの…ほら…伊藤先生の話…」
最後に近づく程、花音ちゃんの声は小さくなる。
ここだとマズい話なら、学校でなくてもどっちかの家で…って、私の家はダメか。
「おば様達に聞いてくれたの?」
「うん、ちゃんと調べてもらったんだけど…えっと…今から言う事、誰にも言わないでね。
果穂ちゃんのお父様にも、あたしの家の誰かにも。」
「花音ちゃんがそう言うなら…それって言っちゃダメって言われてるの?」
今度は縦に首が動く。
それで返事が遅くなったわけか…まあいい。
今なら色々と間に合わす事が出来るはずだから。
「そうなんだ。
それで、おば様達は何て?」
出来るだけ優しい声で問いただす。
花音ちゃんが手招きしたから、私は少し屈んで、花音ちゃんの身長に合わせる。
すると、花音ちゃんは私の耳元で教えてくれた。
「先生、大学出てないみたいなんだ。
あとは…全然教えてくれないの。」
花音ちゃんの声は何処かに吸い取られるように小さくなっていく。
耳元じゃなかったら、確実に聞き返していただろう。
でも全部聞こえたが、私は聞き直したい。
それ以外に知っている事はないのかと。