偽りの先生、幾千の涙
その日は何事もなく、家に帰れた。
そういえば、前は危ないからって伊藤が後ろで見守ってくれてたんだった。
見守るって言い方が適切かどうかは分からないけど。
今日は…電車では後ろにいなかったわよね。
やっぱり、あの時はまだ重要人物として、保護の対象だったのかな?
今は気軽に連絡取れるから…そこまで監視しなくてもいいって事かしら?
清々するけど、薄情な話ね。
そんな事を考えながら、夕食の支度を始める。
今日は…何にしようかな。
明日も皆、遅くまで帰してくれないだろうし…作りおきできるものがいいかな…ハヤシライスとか?
そう思って、冷蔵庫を開けた時だった。
リビングに置いてあるスマホが、ブルブルと震え出す。
どうせ、ろくな人間からの電話ではないんだろうなって思いながら、持っていた玉葱を冷蔵庫に戻す。
それからテーブルまで行って、スマホを手に取った。
伊藤からだった。
…マシな奴からの電話ね。
「もしもし、榎本でございます。」
「知ってる。
ちょっと話したい事があるんだけど、今から来れるか?」