偽りの先生、幾千の涙
今から?
それは…早急な話ね。
やっぱり何か問題でも起きたのかしら。
「晩ご飯ならご馳走するから。
っつか、今日は家で飯作らない方がいいよ。」
「どういう事ですか?
話っていうのは?」
「今は言えない。
とりあえず、下りて来れる?
大丈夫、君のお父様はまだ会社にいるから。
来れるなら、鍵は開けとくから、勝手に入ってきて。」
「分かりました。
すぐ伺います。」
急いで着替えて、最低限必要な物だけを持ち、伊藤の家まで行った。
鍵は本当に開いていて、私は躊躇いもなく家に入った。
危険物が多そうなのに無用心なのは気になったから、警戒心は忘れない。
なのに、玄関の戸を閉めた瞬間に、私の緊張感は消えた。
…普通に料理している感じの音がする。
決行大事な話があるから、下りて来いって言ったんじゃないのかな…まさかもてなしてくれるためだけに呼んだんわけではないはずだ。
なら…何か油断させるため?
私は何も言わずに家に入り、そっとドアを閉める。
廊下を歩く時も、なるべく音は立てないようにして、台所まで行った。
「入って来たなら、ちゃんと挨拶しなよ。
優等生の榎本果穂ちゃんはどうしたの?」
「ごめんなさい。
お邪魔いたします。」
「よろしい。
出来るまでもうちょっと時間がかかるから、ソファにでも座っておいて。」