偽りの先生、幾千の涙
「復讐ってたったそれだけですか?
てっきり、あの父を社会で生きていけなくするように仕向けるのかと思ってました。
…というか、私を殺したって無駄ですよ。
人の為に流す涙を持ち合わせた人じゃないです。」
「俺もそれ以上の事は聞かされてない。
ただ…父さんの言い分では、一人娘を目の前で殺されるより辛い事はないだろう、と。」
「そんなの一般論ですよ。」
「ああ、話を聞いている限り、榎本悟郎が親としての心を持った人間とは思えない。
だから…聞きたい事がある。」
真剣な眼差しが、私の瞳を射抜く。
何を聞かれるのか分からないけど、覚悟を決めないといけないと思った。
「俺と初めて会った日、君はマンションの屋上から身を投げだそうとしていた。
今でも死にたいとか思うか?」
「…」
今でも死にたいか。
私の目的は、父親の罪を世間に公表する事で、お母様を殺した事を後悔してもらう事だ。
それ以上でも、それ以下でも…
と同時に、私の中にある小さな気持ちが顔を出す。
今の生活に対する不満だ。
衣食住に困っているわけではない。
ただ…疲れているのは確かだ。
皆が知っている榎本果穂という人格に、嫌気が差した。