偽りの先生、幾千の涙


なのに今、私はどんな事を考えているだろうか?


呆れるどころか、その提案に乗ろうとしている。


生きたいとか、そんな純粋な気持ちではない。


「逃がして…どうするんですか?
私が逃げてれたとして、貴方はご自身の家族に何て説明する気ですか?
裏切るんですよ、家族を。」


でも、そんな簡単に乗ってはいけない。


逃げるっていうなら、私は何が何でも逃げてやるわ。


そのためにも、逃がしてくれる人の覚悟を言葉で聞きたい。


伊藤貴久という人にとって、家族ってとっても大事なんでしょう?


その家族の意に、そして今までの行動に反してまで私を逃がすなら、それ相応の理由や考えがあるはずよ。


「そうだな。
下手したら、もう二度と父さんにも海斗にも会えない。
それぐらいは分かっている。
分かっているけど、助けたいんだ。
榎本悟郎と違って、榎本果穂は悪い子じゃない。
死ぬ必要はないんだ。
一生懸命生きてるだろ?
猫被って体面保って、なのに時々素が見えて…あの日に救ってしまった命には責任を持つ。
っつか、生きろ。」


何だろう、この気持ち。


きっと伊藤は、伊藤自身の気持ちを殆ど言葉に出来ていない。


なのに、曖昧で漠然としているのに伝わってきたんだ。


だから、私は…

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