偽りの先生、幾千の涙
「瀬戸内優(セトウチ ユウ)」
「瀬戸内優さん?
素敵なお名前ですね。」
何となくだけど、この人は“伊藤貴久”よりも“瀬戸内優”の方が似合っている。
少なくとも、私は瀬戸内優の方が好きだ。
「本名でお呼びしてもいいですか?
勿論、明日に学校で呼んだりしませんから。」
「構わないよ。」
「ありがとうございます、優さん。」
「なあ、明日に人生変わるんだぞ。
俺が助けるって言ったって、死ぬかもしれないとか思わないわけ?
楽しそうに見えるけど。」
「そうですか?」
明日、私は優さんと逃げる。
実感もなければ、不安さえ感じていない。
死ぬかもしれないけど、死ぬ気がしない。
この自信が何処から出てくるのか分からないが、この逃避行で命知らずを落とす事が想像出来なかった。
だからといって、楽しみというわけでもないが。
「ああ。
旅行にいくつもわけじゃねえんだから。」
「分かってますよ。
…でも、遠足気分なのは優さんじゃないんですか?
前日に晩御飯を作って下さるなんて。」
「罪滅ぼしと体力作りだよ。
少くとも、明日は普通にマトモな晩飯なん手食えないだろ?」
「それもそうですね。」