偽りの先生、幾千の涙


おかしな会話だった。


この前までの緊張感は何処に行ったのだろう。


今の私達には殺気というものがなかった。


どころか、何が最善の選択肢なのかを一緒に考えている。


「そうだ。
俺、父さんと明日の打ち合わせをしないといけなかったから、今日は早く帰ってくれないか?」


「分かりました。
…明日、よろしくお願いいたします。」


その日、私は言われた通りに早く帰った。


ご飯をいただいて、少しだけお話しして、何事もなかったかのように、家に戻る。


一人で暮らすには余りにも広くて、ここの3分の1ぐらいの家が良いと何度思った事だろうか。


でも、ここで眠るのも今日で最後だ。


静かな室内で、私はクローゼットを開ける。


何を来たら良いかしら。


制服は目立つから置いていかないと…ってなると、持っていくのは私腹だ。


体操服ぐらいなら、持っていっても大丈夫かしら。


私は淡々と荷物を整理し始める。


でも終盤になって、私は手を止めてしまう。


スーツケースの蓋を閉める直前になり、急に不安になったのだ。

< 244 / 294 >

この作品をシェア

pagetop