偽りの先生、幾千の涙
おかしな会話だった。
この前までの緊張感は何処に行ったのだろう。
今の私達には殺気というものがなかった。
どころか、何が最善の選択肢なのかを一緒に考えている。
「そうだ。
俺、父さんと明日の打ち合わせをしないといけなかったから、今日は早く帰ってくれないか?」
「分かりました。
…明日、よろしくお願いいたします。」
その日、私は言われた通りに早く帰った。
ご飯をいただいて、少しだけお話しして、何事もなかったかのように、家に戻る。
一人で暮らすには余りにも広くて、ここの3分の1ぐらいの家が良いと何度思った事だろうか。
でも、ここで眠るのも今日で最後だ。
静かな室内で、私はクローゼットを開ける。
何を来たら良いかしら。
制服は目立つから置いていかないと…ってなると、持っていくのは私腹だ。
体操服ぐらいなら、持っていっても大丈夫かしら。
私は淡々と荷物を整理し始める。
でも終盤になって、私は手を止めてしまう。
スーツケースの蓋を閉める直前になり、急に不安になったのだ。