偽りの先生、幾千の涙
side by 先生
カーテンのない部屋から、高層ビルが木々のように聳え立つのが見える。
ベランダに出ると、その隙間から、絵に描いたような青空が垣間見える。
雲は見えない、ただただ青い空がそこにはあった。
俺はベランダから部屋に戻ると、数ヶ月だけ住んだ部屋を見渡す。
引っ越してきた頃と変わらない、段ボールだらけの部屋がそこにはあった。
家具や家電の類は全部売った。
スーツやワイシャツ…今の仕事に必要で買い揃えた物も全部処分した。
もう俺には必要のないものだ。
この家とも、教員の仕事も、今日で全部最後だ。
意外と住み心地の良かった家だが、俺には相応しくなかった。
仕事自体は苦ではなかったが、女子生徒や女性教員の相手は面倒だった。
そんな数ヶ月だった。
これからは…今までとっ違う人生を歩むつもりだ。
榎本果穂を解放して、その後は…どうしようか。
裏切ってしまえば、もう父さんや海斗に合わす顔はない。
育ってきた家には帰れない。