偽りの先生、幾千の涙
「すいません、こちらのマンションの方じゃないんですか?」
警備員さんとチャラい男の間ぐらいに立って、2人の顔を交互に見る。
「お帰りなさいませ。」
警備員さんがビシッと姿勢を正して一礼する。
「お帰りなさいませ?
ねえ、君、ここの人?
セキュリティが半端なくキツいんだけど。」
顔を見たら、もっとチャラかった。
私も警備員さんみたいにピシッと姿勢を正す。
「はい、こちらに住んでいるお知り合いから聞いてませんか?
お客様だというなら、ちゃんと住人の方を連れてきてください。
それがここのルールです。
守れないというなら、お引き取り下さい。」
凛とした感じで言うと、チャラい男も流石に黙る。
「分かったよ…兄さんが帰ってくるまで大人しく待ってるからさ、そこ座ってていい?
って、帰って来た。
兄さん、早く!
兄さんがいないせいで、入れないんだけど。」
誰だ、こんなチャラい奴の兄というのは。
興味と苛立ちで振り返ると、私はハッとした。
「分かったって、海斗!」
エントランスに入って来たのは、伊藤だった。
「ってあれ?
国木田さんに、榎本さん?
2人とも家ここ?
それともどっちかが遊びに来た感じ?」
花音ちゃんに聞く伊藤を見て、私は更に苛立つ。
私がここの住人って知ってるだろって心の中で呟くと、海斗という男から離れて、2人のところに向かう。