偽りの先生、幾千の涙
滑稽なのはあの子じゃなくて、俺自身だ。
そんなの分かっている。
でも俺は…
「どうしても、あの子を守りたいんだ。」
鏡にいる自分に、ちゃんと伝えた。
覚悟は出来ているんだぞって気持ちを込めて。
タオルで顔を拭いてから、身支度を整える。
最後の出勤日も、ちゃんとしなきゃな。
また鏡の前に立って、スーツやら髪型やらを確認して、俺は家を出た。
1階のエントランスでは、姿勢の良い守衛が立っている。
「おはようございます。
いってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
毎日毎日、爽やかに大きな声で…偉いな。
そんな事を考えながら、マンションからも出る。
気持ち悪い程青い空と、空に届こうと背伸びするビル…引っ越してきたころは不釣り合いだと思っていたのに、もう慣れてしまった。
これが東京のど真ん中の常識なんだ、と。
そんな景色を胸に焼きつけてから、俺は職場に向かった。