偽りの先生、幾千の涙
張りつめた声が社内に響く。
お嬢様の気まぐれというわけではなさそうだ。
俺は少し先に見えたコンビニの駐車場に寄っていく。
エンジンは切らずに、一時停止のまま彼女の方を振り返る。
「どうした?
今更こわくなった?」
「違います。
…空港に行けないだけです。
全便、動いていないです。」
「は?
何言って…」
全部言う前に、彼女は俺にスマホを見せる。
そこには、飛行機が全く動いていない事、その混乱を記した記事が載っている。
「…どういう事だ?
今晴れてるし、台風が来るなんて放しもなかったぞ。」
「どうもこうもないです。
今行ったところで、何も出来ない…ただそれだけです。」
これは困った。
今更家に戻るわけにはいかない。
父さんが迎えに来る可能性が高い。
でもこのまま何処かで野宿するなんて…無理だ、ここは東京のど真ん中で、俺一人なら何とでもなるが、この子も一緒となると話は変わる。
安く泊まれるところ…っつても一晩が限度だ。
調べようと思えば、父さんならすぐに見つけてしまう。