偽りの先生、幾千の涙


「伊藤先生、お疲れ様です。
国木田さんは私のお客様ですけれど、あちらの男性は先生のお客様で間違いないですか?」


私が花音ちゃんの前に立つと、海斗って人までこちらにやって来る。


「ああ…弟が迷惑をかけてすまない。
警備員さんもすいません。
今からちゃんと手続きするんで、入れてやって下さい。」


伊藤が頭を下げると、警備員さんがまたビシッと敬礼する。


「兄さん、この可愛い子達、兄さんの生徒?
ねえ、今度合コン開かない?
イケメン連れてくるよ。」


「海斗!
お前いい加減にしろ。
出禁になるぞ。
ごめんね2人とも。
こいつ本当に馬鹿でさ。
あ、そうだ!
榎本さん、手続きの仕方、教えてもらってもいい?」


また例の笑顔で言われる。


この弟、自分の兄の嘘に気付いているのかな。


「ええ、勿論。
今から国木田さんの手続きもするので、一緒にやりましょう。
警備員さん、ゲストの手続きお願いします。」


広いエントランスに響く声は、離れたところにいる警備員さんまで届く。


それから私達は手続きをして、オートロックのドアを開けて、中に入る。


「兄さん、これからも兄さん帰って来るまで、中に入れないの?」


「そうだって。
って、今日もバイク飛ばしてきたんだから、あんまり文句言うなよ。」


そうか、あの状態でどうやってこの時間に帰ってきたのかと思ったら、狭い道とか通ってショートカットしたのね。


「はーい。
あ、榎本さんだっけ?
俺たち階段で行くけど、エレベーター?」


「…はい。
私たちはエレベーターで行きますので、これで失礼します。
国木田さん、行きましょう。」


私達はエレベーターに乗ると、伊藤に頭を下げて、すぐに最上階へのボタンを押した。




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