偽りの先生、幾千の涙


私は花音ちゃんをリビングに通すと、台所で紅茶を入れて持って行く。


無駄に広い家に、花音ちゃんは興味津々のようだ。


「ごめんね。
大したもの出せなくて。」


「そんなの気にしないでよ!
あたしの方こそ、何にも持ってこないでお邪魔してごめんね。
あと、さっきはありがとう。!
あの…海斗さん?怖くて全然喋れなかったよ。」


「怖い思いさせてごめんね。
普段はこんな事ないんだけど。」


「果穂ちゃんのせいじゃないよ!
というか、果穂ちゃんがハッキリ言ってくれて、空気変わったよね。」


空気が変わった、確かにそうかもしれない。


だってそういう演技したもん。


「そうかな。
でも私も住民の1人だし、騒がれたら困るから、ちゃんと言わなきゃって思ったのは本当だよ。
でも、伊藤先生の弟さんだなんて驚いたわ。
あんな感じの弟さんなのね。」


「ね!
それあたしもビックリした。
伊藤先生もプライベートはあんな感じなのかな?」


伊藤はああいうタイプではないと思う。


確かに何を考えているのかは分からないところがあるけれど。


「さあ、どうでしょう。
それより花音ちゃん、相談って何?」


「ああ、それなんだけどね、相談っていうのは嘘。
本当は果穂ちゃんの家に遊びに来たかっただけ。
だってさっきも言ったけど、果穂ちゃんとゆっくりお話しする事ってあんまりないんだもん。
ごめんね、嘘吐いて。」


ああ、なるほど、だから相談って言葉が引っかかったのか。


納得した上で、花音ちゃんも嘘を吐くのだと認識する。


そのうえで、私はまたニッコリ笑うのだ。


「いつもごめんね。
私も花音ちゃんともっと遊んだりできたらいいんだけど。
今日はゆっくりしていって。
良かったら晩ご飯もここで食べていない?」


私はその日、夜の9時頃まで花音ちゃんのガールズトークに付き合った。



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