偽りの先生、幾千の涙
9つ目の嘘 次へのステップ

side by 先生



その朝は夏にしては寒いくらいだった。


夜明け前の山中だからかもしれないが、それでも気温は低い。


日が昇る前の暗い車内で、俺はエンジンに手を伸ばす。


多少は寝た事だし、さっさと車を走らせるかとエンジンをかけ直した時である。


エンジンと共についたラジオからニュースが流れてくる。


後ろに乗っているお嬢さんがまだ寝ているので、音量を下げようとした。


だがその手が止まってしまう。


「昨夜、東京都在中の女子高校生、榎本果穂さんが誘拐された事件について、警察は榎本さんの通う高校の教員の男性…」


いやいや、冗談だろ。


俺が誘拐犯?


いきなりの事に俺はスマホの電源を入れて、ニュースを確認する。


ニュースには俺の顔写真がバッチリ載っていた。


嘘だろ、流石にまずい。


ご丁寧に俺の本名も偽名も両方乗っている。


幸い、車の情報までは分かっていない。


変装さえすれば、ガソリンを入れにいくぐらいは何とかなるだろう。


問題は何処に向かうかだ。


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