偽りの先生、幾千の涙
side by 先生
暗い非常階段を上がり、2階に着くと明るい廊下に出る。
綺麗に掃除された廊下を、スーツを着た俺とやたらとチャラい弟が歩く。
このマンションの住民って上品なのばっかりだから、海斗みたいな奴を見たらひっくり返るだろうな。
俺は家の鍵を開けて、海斗を通す。
そして素早くドアを閉めて、鍵も掛けると、真っ先に怒鳴った。
「おい海斗!
俺が帰るまで待っとけって言っただろ!
お前のせいで俺、警備員に目付けられるところだったぞ!」
「だってエントランスで待ってたら、警備員に声掛けられたんだって。」
「だから…って勝手に触るな。」
段ボールを開けようとする海斗の手を止める。
目を離すと何をするか分からない奴ではあったが、酷くなっている気がする。
「何で?
ヤバいもの入ってるから?」
「…中身ならお前もだいたい想像つくだろ。
開けたきゃまず、カーテンを閉めろ。
2階って外から丸見えなんだって。」
俺が言うと、海斗は家のカーテンを閉めて回る。
勿論、閉めたって開けさせてなんてやらないけどな。
「で、今日は何の用だ?」
戻って来た海斗に聞くと、とぼけた顔でこう答えた。
「父さんに頼まれたんだって。
兄さんの家にちゃんと荷物が届いているかと、兄さんの様子を見てこいって。」