偽りの先生、幾千の涙
俺は頭を抱える。
気になるなら自分で来いよ、海斗がこのマンションに不釣り合いな事ぐらい分かるだろ。
だが来てしまったからにはもう遅いから、何も言えない。
「それより兄さん、どうなの?
学校は馴染めそう?」
「…どういう意味だ。」
「だから、学校で色々バレずに、至って普通の教師をしながら、榎本果穂について調べられそうかって聞いてるの。」
真剣な目をしながら笑っている海斗を見て、こいつはまだまだ嘘が下手だと思った。
この仕事、俺が引き受けて本当に良かった。
「さあな。
でも今日のところは、爽やかイケメン先生・伊藤貴久のキャラは確立出来たぞ。」
キャラを作りすぎたせいで女子高生に囲まれた事は災難だが、それは仕方ない。
榎本果穂が俺に懐いてこないのは問題だが、逆に信用させればこっちのものだろう。
前向きに考えれば、活路はいくらだって見出せる。
「待って、兄さん。
爽やかイケメン先生って何、マジでウケるんだけど。
兄さんが爽やか?
腹なら誰よりも黒い兄さんが?」
海斗が腹を抱えて笑い出した。
俺だって、今日の自分を思い出すだけで腹が捩れそうだ。
でもそういう仕事を引き受けたんだから、仕方ない。
「というか、このキャラを考えたのはお前だろ。
女子高生はそういうの好きだって断言したのは海斗じゃねえか。
そういうお前も腹は白くないからな。」