偽りの先生、幾千の涙
俺は段ボールの山を見つめる。
普通の人間が持っているものなんて1つもない。
ライフルに拳銃、防弾チョッキ、それこそ危険物の塊だ。
「そう言えば、そうだった。
ねえ兄さん、文化祭とか体育祭ないの?
学校での兄さん見たいんだけど。」
「女子校だから、生徒の家族以外の男は入れねえよ。
それより海斗、逆に父さんからは何か聞いてねえか?
引っ越してから何の連絡もないが。」
「身体には気を付けて頑張れって。
あと、何か分かったら逐一報告しろって。
なんかある?」
俺は初めて榎本果穂と話した夜を思い出す。
このマンションの構図を把握するためにあちこち見て回っていて、屋上に出た時だ。
住民なら誰でも景色を楽しめる、そう言って渡された専用の鍵で屋上への入口を開けた時だ。
100万ドルの夜景と1人の少女が立っていた。
サラサラの長い黒髪が風に靡き、紺色のセーラー服で佇むその姿、いや、景色はとても美しかった。
その時の俺は、それが榎本果穂だとは知らなかった。
知らずにただ見惚れていたんだ。
榎本果穂がそこから前に進もうとするまでは。