偽りの先生、幾千の涙


「…話す事はまだない。
強いて言うなら、ピアノが上手いぐらい。」


そんな事があったなんて言えば、父さんに怒鳴られるから、俺は今日の報告だけする。


海斗はつまらなさそうにスマホを弄っている。


「そっか…兄さんは収穫なしか。
じゃあ今日は俺の勝ち。」


海斗はニカッと笑って、俺にスマホを向ける。


そこには、エントランスにいた榎本果穂と国木田花音が写っている。


あの時、海斗が遅れて合流したのはこの為か。


「えっと、この可愛い子、国木田さんだっけ?
榎本果穂の家に来るぐらいだから、結構仲良いんじゃない?
兄さん、この子の事は何か分かる?」


「国木田花音。
榎本果穂と同じクラスの奴だ。
俺も今日はよく観察出来なかったが、榎本果穂の周りにいる取り巻き連中とは雰囲気が違っていた。
仲が良いかは分からない。
国木田花音が一方的に榎本果穂を慕っているようにも見える。
国木田花音についても明日から調べておくよ。」


「よろしく。
いいな、兄さんは。
女の子とイチャイチャできる仕事で。」


「イチャイチャしたら首だからな。
っつかお前みたいな考えだったら、絶対にこの仕事任せてもらえてないからな。」


そう、何十人ってのいる女子高生を見ながら、特定の1人だけを注視しないといけない。


そんな甘い任務ではない。


多分、海斗はまだそういう事が分かっていない。



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