偽りの先生、幾千の涙
海斗が開けてもいい箱を尋ねる。
欲しいものを問えば、何か食べるものが欲しいと答えた。
俺は冷蔵庫の中を覗いた。
すっからかんの冷蔵庫には、1人分の食材が少々散らばっているだけだ。
「何か食べたいものある?」
「何でもいいなら、炒飯。」
「炒飯?」
「うん。
兄さんの炒飯、上手いから。」
「え?
俺が作るのかよ、まあいいけど。
…段ボール開けるなよ。」
買い物ぐらいは行かせたいけど、帰ってきた時にまた迎えに行くのが面倒だから、俺が行く。
あいつ世間知らずだから、何買ってるくるか分からないしな。
俺はジャージに着替えて、買い物に行く。
その道すがら、ふと空を見上げた。
マンションやビルの明かりが煌々と輝き、地上を照らしている。
星の光なんて届かない、こんな近くに、こんな明るいものがあるのだから。
俺は先週の夜の事を考える。
榎本果穂はこういった明かりを前に、何に不満を抱き、死のうとしたのだろうか、と。