偽りの先生、幾千の涙
…ハッキリ言おう、使える。
口角が上がるのを意識しながら、俺は国木田花音を待った。
腕時計を絶え間なく見ていると、彼女は5分前にドアをノックする。
「失礼します。」
入ってきた彼女の表情は不安、こんな奥まった部屋で男と二人きりになった事がないのだろう。
不安なぐらいがちょうど良い。
付け入る隙は大きくて困らない。
現状に隙がなくても、"今のこの瞬間"に隙があれば十分だ。
「国木田さん!
そこのソファ座って。
ごめんね、休み前で早く帰りたい時に。」
「いえ。
逆に今日で良かったです。」
それなら良かったとばかりに話を始める。
「面談の前にさ…この前は弟がごめんね?
悪い奴じゃやいけど、国木田さん、あんな感じの男子見る事をないし、怖かったでしょ。」
最初は関係のない話から。
これは謝っておいた方が俺も都合が良い。
「い、いえ…確かに少し驚きましたけど…果穂ちゃ、榎本さんもいましたから、大丈夫ですよ。」
まだ何も仕組んでいないのに、早速名前を出してくれた。
これはありがたい。