偽りの先生、幾千の涙
「そっか、榎本さんのお家だもんね。
そうだ、俺と榎本さんが同じマンションに住んでいるの、誰かに言った?」
「言ってないですよ。
えっと…言わない方がいいですよね?」
「言わないでいてくれると助かる。
生徒が同じマンション住んでいるってさ、何もなくても疑われるじゃん。
榎本さん、一人暮らしだし。
まあバレたらバレたで何とかするけど、出来れば言わないでほしいんだけど、約束してくれる?」
ちゃんと目を見てお願いすると、国木田花音はコクリと頷く。
よし、良い子だ。
「ありがとう。
さて、本題。
進路の方だけど…」
それから5分少々進路の話をする。
今も出している進路希望は妥当で、遠慮や見栄もなかったから、そこはスルーする。
あとはこれからの学習アドバイスをして、終わらせる。
「他に話しておきたい事ある?」
「特には…」
「じゃあ、他の事教えて。
答えたくなかったら答えなくて全然いいから。」
他の事が何か見当がつかないのか、国木田花音は首を傾げて質問を待つ。
「面談するって言った日に言ったけど、俺は皆の事をまだ全然知らないんだ。
知らなくていいって思う子もいるだろうけど、せっかく担任になったんだから、俺としては知っておきたくて。」