偽りの先生、幾千の涙
「俺は国木田さんにも良いところあると思うけどな。」
自尊心の低い子は抽象的に褒めてあげてもダメだ、お世辞を言われただけだと思い込む。
ならば、具体的に褒めてあげればいい。
他に褒めてくれる人がいないなら、俺が褒めてあげればいい。
褒められ慣れていない人間程、信用させるのは簡単なのだ。
「え?
そうですか?」
「あるよ。
ここぞって時にちゃんと発言出来る。
この前の学級委員の時だってそう、誰も何も言わなくてちょっと困ってたけど、国木田さんが発言してくれたから、皆が賛同出来たんだよ。
俺も助かった。
あと、去年の夏休みの読書感想文。
クラスの子の分は見せてもらったんだけど、国木田さん、よく書けてたじゃん。
最優秀賞を取った榎本さんも勿論凄いけど、国木田さんの文章の方が好きだな。
俺もあんな感想文書ける高校生でいたかった。」
全員分、読んだのは本当だし、結果も教えてもらった。
最優秀賞の榎本果穂とは違い、国木田花音は佳作さえ取っていない。
インパクトはないし、感情表現もイマイチだったけど、一生懸命書いた事だけは伝わるし、読みやすい文章ではあった。
一生懸命頑張ったけど埋もれてしまったものを、俺が評価する。
「ありがとうございます!」
ほら、元気になった。
俺は笑顔で頷く。
「この3週間ぐらい見てて、国木田さんは謙虚な子だなと思った。
良い事だけど、少し卑下しすぎかもしれないね。
俺もまだ国木田さんの良いところ見つけきれていないし、人間だから欠点もあるけど、自分の事も認めてあげなきゃ。
頑張ってる国木田さんが可哀想だよ。」